発達障害の謎ー人間性心理学会講演
日本人間性心理学会の第43回大会が9月27日から29日まで、山口県山口市の維新ホールで開かれた。大会準備委員会企画として、小柳晴生さんが「発達障害の謎に迫る」と題して講演し、多くの反響があった。
小柳さんは、学校基本調査で特別支援学級の在籍者が2012年から10年間に2倍以上の35万人に増えていること。2002年との比較ではこの20年間で5倍になり、年々増加ペースが大きくなっていることを指摘した。その半面、通常学級に在籍する「学習や行動面で著しい困難を示す」児童生徒(2022年調査)が小学1年生では全体の12.0%いるのに、中学3年では4.2%と少ないことを示した。
「(通説の)先天性脳障害説でこの数の多さや急増、学年進行による減少を説明できるだろうか。今や子供の1割を超える先天的障害が50年前にはその概念すらなかったというのは、納得できない」と問題提起した。
小柳さんは、近年のさまざまな研究や著作を紹介。臨床経験を基に、発達障害は、乳幼児期に母子間の情緒のやりとりがずれることから起きる「愛着形成不全」だとする自説を打ち出した。発達障害と呼ばれる子供が増えている理由としては①大人の生きる速さが速くなった②スマホなど情報機器の爆発的進化による機械的な情報接触量の増大③大人の原初的な能力(直観)が働きにくくなったことを挙げた。
愛着形成不全の最大の不都合は、「気持ちを分かち合えない」ことだとした。「発達障害と呼ばれる人は、人との間で気持ちを分かち合うことが苦手だが、自分との間でも同じことが起こっているのではないか」と語った。原因が愛着形成不全だとなると、援助の方法は今後、母子関係の充実を図るためのカウンセリングやプライセラピーに変わっていくと予測した。
小柳さんは、香川大の教授、保健管理センター所長、放送大客員教授などを歴任。今大会に合わせて、大石英史(大会長、宇部フロンテイア大教授)と共著で「脳の落とし穴、愛着の忘れもの-発達障害の謎に迫る」を出版した。
アイキャッチ写真は、山口市内にある中原中也記念館。詩人の生誕地に開館して30周年を迎えた。