保護司や調停委員にも
上村英生は、保護司や家事調停委員、少年の付添人活動の基礎として傾聴とフォーカシングを生かしています。
保護司は罪を犯した人の立ち直りを支えたり、服役中の受刑者と身元引受人との調整をする非常勤の国家公務員です。保護観察を受任すると、月2回程度、対象者と面接をします。その中で、気持ちを整理するために「こころの天気」シートを使うことがあります。これは島根県の教師らが開発したシートで、今の気持ちを天気に例えてクレヨンや色鉛筆で描く方法です。
また、フォーカシングの第1段階とされるクリアリング・ア・スペースを、イメージを浮かべたり、紙に描いたりする方法でしてもらうこともあります。これらによって、対象者は今の自分の気がかりを整理できます。
このほか、「自己表現ワークシート」(大竹直子著、図書文化)を用いて、対象者に気持ちを言葉やイメージを使って表現してもらいました。これによって、こころが安定し、自分をよりよく知って、元気になることが多かったです。
また、「TAEによる文章表現ワークブック」(得丸だと子著、図書文化)も活用しました。フェルトセンス感度チェック、花束のワークなどが効果的でした。「自己PR文をつくろう」で自分の長所を短い言葉にすることで、これからの人生で困難にあっても思い出せる糧となるキャッチフレーズをつかんでくれました。
保護司の面接や、家庭裁判所の調停、事件を起こした少年の付添人活動では、第一に信頼関係づくり、第二に傾聴、第三にフォーカシングを心がけています。ジェンドリンの「人とワークすることの本質は、生きている存在としてそこにいること」(「セラピープロセスの小さな一歩」、金剛出版)という言葉を忘れないようにしています。フォーカシングであれ、他のものであれ、2人の間にはさみこまず、1人の人間としてそこにいること。私が技法を使って操作するのではなく、対象者が私に接触してくるのを待つのです。
相手の中でフォーカシングのプロセスが進むと、生き直しや、離婚や遺産分割でもめている複雑な状況からの一歩前進につながるでしょう。
私がフォーカシングを通じて身につけたことは、幅広い分野の対人援助の基礎として役立つと確信しています。
猫と一緒にいる感じ
ネコを飼っています。コトラ(コト)とハナのきょうだいです。野良で餌だけ人にもらっていた猫が2020年5月に赤ちゃんを5匹産み、そのうちの2匹を我が家でもらいました。少し神経質で痩せ気味だったハナも、すっかり丈夫になりました。コトは人懐っこく、あいさつに寄ってきては顔をすり寄せてきます。きょうだい一緒なので、2匹で遊んだり、運動会をしたり、楽しそう。ハナが予防接種で家を離れたときのコトは寂しそうに泣き続けました。
香港の馬傑偉(エリック・マ)さんが、国際フォーカシング研究所のニュースレター「イン・フォーカス」2021年2月号に寄稿したエッセイ「香港で、エッジで考え、希望に取り組む」の中に、ジェンドリンの「猫の神学」があります。政治的自由が急速に失われる中で、馬さんはナダ・ルーさんの、TAE(エッジで考える)コースを受講し、ジェンドリンが猫の神学について話している動画をナダから受け取ったそうです。
(以下、抜粋)ジェンドリンの猫は、ソファでジェンドリンの隣に座っているときジェンドリンの存在を感じていましたが、猫の食べ物をどこで買うかも知らず、ジェンドリンが家から離れて行うセミナーやフォーラムで何をしているかは知りません。それは猫の理解を超えた世界でした。しかし、一緒にいるというフェルトセンス(からだの感じ)はそこにありま した。ジェンドリンは特定の宗教制度は避けていましたが、神とつながっている感覚は持っていました。それは彼の猫が彼とともにいるようなものでした。
この「猫の神学」は(馬さんに)響いてきました。
私はこのエッセイを読んで、香港にいる馬さんが世界の人たちとつながっている感じを持ち続けていてほしいと思いました。同時に、家で飼っているネコたちを思い出します。ネコと一緒にいる、何か意味がありそうな感じはあります。ネコもそれを感じて、顔をすり寄せてくるのでしょう。言葉を話さないネコでさえ、そうですから、私の話を心をこめて聴いてくれる人がいるなら、言葉になる前の感覚にとどまることができるでしょう。その感覚が生じるのを待って、書くこともできるでしょう。このホームページへの投稿もそうした言葉の発信でありたいです。
プロセスモデルと猫
ジェンドリンは猫を飼っていたこともあり、哲学の著書「プロセスモデル」には猫がよく出てきます。
猫は彼の隣に座ることが大のお気に入り。猫の高等動物らしさとして、彼の手に毛がないことを感じていながらも、彼の手の毛繕いをすると書いています(第7章、194ページ)。この種のコミュニケーションは猫の間でも、猫と人間の間でも起きます。
動物が持たない、言語が含むような類いの経験を彼は「~について」と呼びます。たとえば、一人暮らしのメアリーが棚からスーツケースを取り出すと、猫は悲しそうになります。メアリーがもうすぐ旅行に出かけて、自分が数日、ひとりぼっちになるのを意味していると知っているからです。たとえ彼女が何かを詰めているだけだとしても、実際にスーツケースを棚に戻す以外には、そのことを猫に話してわからせる手立てはありません。動物の体験には「~について」だけであるようなものはありません。実際にある行動が存在するだけです。
プロセスモデルはこのあと、鳥の求愛ダンスを例に動物のジェスチャーを説明し、やがて、人間の言葉に行き着きます。言葉は「~について」語られます。言葉以前のフェルトセンス(からだの感じ)が「~について」であることは、何となくわかります。フェルトセンスから言語化できたら、進化のステップをもう一つ上がり、もっと創造的になれる。人類の未来があると、ジェンドリンは言いたいのでしょう。
上村が飼っている、2020年5月生まれのコトラ(雄)とハナ(雌)を写真で紹介します。クリックすると大きくなります。鼻の白い方がハナです。



