生物はなぜ死ぬのか

 生物学者は、死をどうみているのか。長生きするにはどうしたらいいか。東大教授の小林武彦さん(前日本遺伝学会会長)の「生物はなぜ死ぬのか」(講談社現代新書、2021年)に教えてもらった。
 生き物が死ななければならない理由の一つは食料や生活空間の不足だが、これは移動などで何とかなる。もう一つが「多様性」だ。激変する環境の中で生き残ってきた仕組みが「変化と選択」。つまり、たくさんの種が生まれたからこそ、変化する環境の中で生命が連続してきたという。
 長寿法は、多くの生物では栄養の摂取量が少し減ると寿命が延びる。サルでも確かめられ、やはり、腹八分目が体にいい。
 また、ハツカネズミの10倍ほど長生きするハダカデバネズミを参考にする。その特徴は、多くが昼寝をすることと、分業によるストレスの低減や生涯現役を挙げる。著者は、子育てを今以上にプロに任せ、歳をとってもできる・やりたい仕事が一生続けられる、ゆとりある社会を提言する。
 それでも、人間には寿命がある。自分の存在を失う恐怖をどうとらえるか。この恐怖は、ヒトが共感力を身につけて集団を大切にして、他者とのつながりによって生き残ってきた証であるという。
 死なないAIと人はどうつきあうかという問題では、人とはどういう存在かを私たちがしっかり理解して、AIに頼りすぎないことを求める。
 最後に「生ー死を繰り返すことのできる舞台となる地球を、自らの手で壊すことのないよう守っていくこと。そうすればまた形を変えて生き物は再生できる。多様であることを大切にし、変化を好み、そして間違え、反省し、人に共感して笑ったり泣いたりして人生を送れたら最高」と書いている。