「わかりやく」が名作に結晶
NHK朝ドラの「ばけばけ」が3月で終わる。私も熱心な視聴者だ。現在、ドラマでは八雲が東大を解雇され、「書く人」として執筆に向き合うストーリーが進んでいる。
きょう(3月19日)は、妻から「あなたはすばらしい本をたくさん書いてきた。時間ができたなら、無学の私にもわかりやすい本を書いて」と励まされるシーンがあった。
実在の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、東大を解雇された翌1904年に54歳で亡くなった。妻節子から聞いた民話や伝承を元に創作して、死亡した年に出版した本が「怪談」だった。
この中で最もよく知られている作品が「耳なし芳一」だという。この作品は、壇ノ浦の合戦で滅亡した平家の悲話を原作にした。盲目の琵琶法師・芳一が、この合戦を題材に弾き語りする中で起きる怖い話である。
高木大幹著「小泉八雲と日本の心」によると、1782年に刊行された2ページ程度の原作をハーンは15ページの長さにした。原話の日本語が読めないハーンは、やさしい日本語に語り直してくれる節子夫人の言葉や身振りを通してアウトラインをつかんだ。ドラマでも再現されたように、怪談を聞くハーンの集中力は、すさまじかった。書き出しは、淡々とした原話とまるきり違い、12世紀の壇ノ浦に読者を引き込む。
私は今月末、山口県下関市にある赤間神宮を訪れる。壇ノ浦の戦いで、入水死したわずか8歳の安徳天皇をまつった阿弥陀寺を継承した神社だ。耳なし芳一の物語は阿弥陀寺に伝わる説話だった。ハーンが英語で「Kwaidan 怪談」に掲載したことで一躍有名になった。1957年に「耳なし芳一堂」が建てられた。ここにある芳一の木像を拝んできたい。
私は早速、「耳なし芳一」を読んだ。話の情景が浮かぶように、わかりやすく伝えようとしたエネルギーを感じる。作家一人ではなく、妻や歴史を含めた環境との「交差」によってこの作品が生まれたことも。

