脳神経科学からみたフォーカシング
英国のフォーカシングコーディネーター、ピーター・アフォードさんから、脳神経科学から見たフォーカシングについて学びました。12月4、5日にズームで開かれた日本フォーカシングプロフェッショナル会の研修です。
初日の内容は、札幌フォーカシングプロジェクトのホームページに投稿したので、ここでは2日目の内容を紹介します。
まず、人間関係における神経系の状況について、米国の精神医学者、スティーブン・ポージェスの多重迷走神経理論(ポリヴェーガル理論)を説明しました。
①社会的かかわりでの「安全」感は、腹側迷走神経で生じます。フォーカサーがリスナーに安心して心を開ける状態で、右脳も左脳も上手に使えます。
②「危険」は交感神経系で起きます。闘争、逃走、凍り付きなどの古いパターンです。
③「生命の危機」は背側迷走神経系で感じます。精神的なダウンや、解離した状態です。副交感神経が極端に働き、右脳が非常に優位になります。左脳が働かないので、言葉を発することができません。フォーカシングのセッションを中止し、目を閉じているフォーカサーは開けて、現実に戻る必要があります。
次に「情動の耐性の窓」を説明しました。「安全」は適正な覚醒レベルで、フォーカシングが可能です。「危険」は過覚醒で、フェルトセンスを強い情動がのっとっています。「生命の危機」は極めて低い覚醒のレベルです。フェルトセンスを感じるのが難しく、右脳が過去のトラウマによってこうなることがあります。「耐性の窓」を大きくすることが重要です。
三つ目は「未完了で停止したプロセス」です。ジェンドリンのいう構造拘束的な体験です。気持ちを表現できる安全な状態にないと、交感神経の覚醒にとどまり、リラックスできません。トラウマは右脳における断片化、迷子になった感じ、どうしてこんな感じになるかわからない状態です。
「防衛」は右脳で起こる状態を左脳が抑圧している状態です。トラウマが起きることを回避したり、現実に起きていることを否認したりします。
フォーカシングによる癒やしは、背景にあったものが前景化し、情動喚起のサイクルが完了します。新しい気持ちや思考、新鮮なイメージ、新しい何かが出現します。2人の計4つの脳半球が調和し、フォーカサーはフェルトセンスを感じることができます。クライエントがトラウマ状態のときは、リスナーは普通のフォーカシングセッションではなくて、セラピストとしての視点を持った関わりで取り組む必要があります。