フォーカシングは、からだで感じるので、頭で考えてはいけない、と思われがちですが、TAE(Thinking At the Edge)は、フェルトセンスという感じから考える方法です。ジェンドリンが晩年、TAEのステップを発表し、ワークショップで教えました。
 フェルトセンスを感じるだけでなく、そこから出てきた考えを社会に向けて提言、発表するのです。日本では、得丸智子さんや諸富祥彦さん、末武康弘さんらが、ジェンドリンの暗在性哲学と質的研究法の研究会を毎月1回、これまでに100回以上、続けており、その中でTAEを使った質的研究がよく発表されています。得丸さんは、TAE研究会を主宰。ワークシートや本を出版しています。TAEリフレクション(TAE reflection)というサイトに行くと、だれでも、自分の時間や目的に応じてTAEをできるシートがダウンロードできます。得丸さんは、毎年、TAEパーソナル講座も開いています。

 「新聞記者が良い記事を書けたとき」を理論化

 上村はこの講座を2020、2021年度に受講し、新聞記者体験から自分なりの理論を得ようとしました。得丸さん作成のシートに沿って実例を取り出し、パターンを見いだし、交差を経て、理論(概念)をつくった結果を2022年9月に内輪で発表しました。
2020年度は、「新聞記事を書く記者の感じ(フェルトセンス)」をテーマに、自分の記者体験から印象強い実例を思い出し、16枚のシートに抽出しました。マイセンテンスは「『う~ん』の時間をとって、ほとばしる火花を書くと、読み手に通じる」でした。骨格文は「ひと息は、話したい、聴きたい、伝えたいことを二重三重に感じてフルに話を聴いたあとにつき、そこでひらめく火花を書くと、花火となって読者に届く」でした。
 2021年度前半は、テーマを「新聞記者が良い記事を書けたときの感じ」に少し絞りました。自分の書いた記事を35年間のスクラップ帳74冊から確認し、テーマに合う27本の記事を実例カードに書き出しました。そこから得られたマイセンテンスは「権力なき記者が心血注ぎ、社会に速報」。骨格文(結果文)は、「記者の心血は、今、を今書くことに注がれ、そのたまものとして迫真の第一報が生まれ、やがて人々に脈打つ」でした。
 同年度後半は、先輩記者にインタビューして、響いてきたものを4枚の実例シートに書き出しました。マイセンテンスは「未知の世を動かすスクープは、耳学問で得た人間的信頼を基に、小さい言葉を確かめていくと生まれる」でした。骨格文(結果文)は「記者は、耳新しい、小さな言葉を敏感に受け止め、別の人にぶつけて確かめていく。それによって人間的な信頼関係を結ぶ。こうした「耳学問」で知った全体像を字にすると、突破口が見えてきて、問題が次の段階へと転がっていく」でした。
以上の結果をわかりやすく示すために、理論の図解を載せます。

2020年度の図解シート
2021年度の自分の実例の図解シート
2021年度、先輩の実例の図解シート

 2年間のまとめとして、印象的な言葉として出てきたのは「ひと息」「フル」「二重三重」「火花」「花火」、「心血」「今、を今書く」「第1報」「脈打つ」、「小さな言葉」「耳学問(耳新しさ)」「信頼関係」「突破」でした。
 人の話を聴いて信頼関係をつくることが大事である点はどんな人にも通じることです。しかし、耳新しくて、意味のある小さな言葉に敏感になり、全体像を素早く書くことで、多くの人に脈打つという点は、記者らしさと言えるでしょう。だれもが発信できるインターネット時代に、記者の仕事から得られたものを若い世代につないでいきたいです。

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